補助生殖医療(ART)と呼ばれる高度生殖医療技術の普及に伴い、ゴナドトロピン製剤の使用量は急増し、重症化する卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の頻度が増加している。 体外受精においてOHSSのハイリスク患者では、全胚凍結保存し妊娠によるHCGの暴露を避けることが現在効果的なOHSS回避法とされているが、凍結胚移植の妊娠率は一般に採卵後胚移植に比べ劣っているため、全例凍結胚移植をおこなうことには医学面、経済面からも抵抗がある。私どもは、胚移植日の血中von Willebrand factor(vWF)値を指標に、重症OHSSの発症を感度80.0%、特異度93.8%でで予測することに成功した。これは平成10年度の日本受精着床学会にて報告した。現在この指標のもとに重症OHSSの発症をどの程度軽減できるかの検討を実施している。 次に発症した重症OHSSを危機的状態から早期に回復させる独自の腹腔一肘静脈シャントを用いた腹水静脈持続還流療法という従来の治療法を一新する方法を開発し臨床応用に成功した。シャントは腹腔に挿入したテフロンカテーテル〜ロータリーポンプ〜フィルターを介し肘静脈に接続するいたって簡単な回路であるので、いずれあらゆる施設での実施は可能であると考えている。本治療は、現在までに35症例に実施され、患者の苦痛を顕著に軽減し、早期の回復が可能である。平均本治療実施日数は2.7日であった。本治療の特色は、アルブミン製剤を用いず、自己蛋白を使用するため、血液製剤による副作用はないこと、従来の治療法に比ベ入院期間を2/3までに短縮できることである。医学的側面だけでなく経済的側面からも有用な方法であると確信している。本法に関しては、平成10年度の日本産婦人科学会総会および同年のヨーロッパ不妊学会で報告した。
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