発声運動の形成には聴覚フィードバック情報に基づく内喉頭筋活動の制御が関与する。大脳皮質などの上位中枢が離断された除脳ネコの中脳中心灰白質(PAG)に連続微小電気刺激を加えると発声運動を誘発できる。また、PAG誘発発声運動中の除脳ネコに聴覚刺激を加えると発声音や内喉頭筋、呼気筋活動が増強する。この成績は実験動物でもLombard Reflexが誘発され、除脳ネコがLombard Reflexの誘発機序の解明に有用なモデルであることを示す。Lombard Reflexで声門閉鎖筋と呼気筋活動が増大することより、本反射を構成する要素としてauditory-laryngeal reflexとauditory-spinal reflexが存在することは明らかである。本研究では聴覚フィードバック機構の働きを調べるために、平成10年度にはLombard Reflexを形成する神経経路を電気生理学的手法を用い解析した。その結果、1)聴覚刺激を加えると内喉頭筋に誘発される喉頭反射の大きさは増大し、内喉頭筋運動ニューロンの興奮性が増大した。2)聴覚中継核の中で内喉頭筋運動ニューロンに線維投射する神経核を探すため、疑核への電気刺激に応答する中継核を探索した。そして、外側毛帯核(LLD)で誘発電位が記録された。3)LLDに神経細胞を興奮させるグルタミン酸を注入すると、聴覚刺激を加えた場合と同様に喉頭反射の大きさが増大すること、などが解明された。これらの結果はLLDが疑核に直接的あるいは間接的に投射し、LLDの興奮が内喉頭筋運動ニューロンの興奮性を増大させることを示している。すなわち、Lombard Reflexを構成するsuditory-laryngeal reflexの形成にLLDが関与するものと推測された。
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