発声運動には聴覚フィードバック情報に基づく内喉頭筋活動の制御が関与する。上位中枢が離断された除脳ネコの中脳中心灰白質(PAG)に連続微小電気刺激を加えると発声運動が誘発できる。PAG誘発発声運動中において、除脳ネコに聴覚刺激を加えると発声音や内喉頭筋および呼気筋活動が増強する(Neuroscience Res 29(1997)283-289)。この成績は上位中枢が離断された実験動物でもLombard Reflex 様の反応が誘発されることを示す。Lombard Reflexでは声門閉鎖筋と呼気筋の活動が同時に増大し、本反射の形成にはauditory-laryngeal reflexとauditory-spinal reflexの両者が誘発されることが重要である。本研究では聴覚フィードバック機構の働きを調べるために、平成10-11年度にLombard Reflexを形成する神経経路を電気生理学的手法を用いて解析した。その結果、1)聴覚刺激は内喉頭筋に誘発される喉頭反射の大きさを増大させ、内喉頭筋運動ニューロンの興奮性を増大させることを示した。2)聴覚中継核の中で内喉頭筋運動ニューロンに線維投射する神経核を探すため、疑核への電気刺激に応答する中継核を探索した。そして、外側毛帯核(LLD)で誘発電位が記録された。3)LLDに神経細胞を興奮させるグルタミン酸を注入すると、聴覚刺激を加えた場合と同様に喉頭反応の大きさが増大することを証明した。このことはLLDの興奮が内喉頭筋運動ニューロンの興奮性を増大させることを示す。4)呼気筋である外腹斜筋で記録されるL2脊髄神経刺激の誘発反射の大きさは、聴覚刺激を加えた際とLLDにグルタミン酸を微小注入した際に、ともに増大することも証明した。すなわち、LLDへのグルタミン酸注入は内喉頭筋および呼気筋の運動ニューロンの興奮性を増大させることを示す。したがって、Lombard Reflexを構成するauditory-laryngealreflexとauditory-spinal reflexの形成にLLDが関係すると推測された。
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