研究概要 |
本研究は、昨年完成した急速水平加速度刺激に対する体平衡検査装置を用いて、姿勢制御に関する知覚系の作用を解明することを目的とした。研究実績の概要は、以下の通りである。 (方法)健康被検者8名を対象とし、刺激装置に設置した重心動揺計上に開眼閉脚直立させた。頭部の加速度変化を測定するために、キスラー社製の加速度計を頭部に装着した。刺激条件は、加速時間50msec、移動速度5,10,20,30cm/secの4種類とした。この際の刺激開始時の平均加速度は、100,200,400,600cm/sec^2となる。(結果)移動開始と同時に小振幅の足圧中心波形が、刺激方向と逆方向に出現した(a波とする)。これに続いて大振幅の急峻な立ち上がりの足圧中心波形を認めた(b波とする)。b波潜時と上記刺激加速度の関係をみると、刺激加速度が大きくなるにつれて潜時は0.14secから0.11secと短くなった。一方、頭部加速度波形をみると、まず刺激と反対向きの小振幅加速度波形(c波)を認め、続いて刺激と同方向への大振幅加速度波形(d波)を認めた。c波が最初の頭部及び前庭への入力情報となると思われる。このc波潜時と刺激加速度の関係をみると、刺激加速度が大きくなってもほとんど変化しなかった。(考察)今までの我々の研究から、刺激に対する立ち直り反応が、足圧中心波形b波に現れる事がわかっている。このb波が頭部・前庭への加速度刺激をtriggerとするのか、それとも下肢の体性感覚入力をtriggerとするのかが、今まで解明されていなかった。本研究の結果で、頭部c波潜時が刺激速度と無関係であったのに対して、足圧中心b波潜時が刺激加速度の増加とともに短縮したことから、立ち直り反応が下肢の体性感覚入力によるものであろうと推察した。今回の研究成果は、どの知覚刺激が立ち直り反応を惹起したかを推定する上で、重要な発見となった。
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