平衡適応は脳可塑性のモデルと考えられている。しかし、幼弱動物ほどその可塑性は優れていると考えられる。ヒトでも成人後両側迷路障害をきたすと、その平衡適応は十分にされないことが観察されているが、幼少児期に両側迷路障害をきたしても、平衡機能は正常とあまり相違ないことが知られている。 生後10日から15日の幼弱ラットの両側迷路を経頸部法により中耳から迷路を開放し、両側迷路破壊を行った。生存したラットは生後7から8週では行動に正常ラットとほとんど変化なく、また回転検査でも姿勢保持は変化なかった。このことから、幼弱ラットの両側迷路を破壊した後の平衡回復は、脳可塑性が働いたためと考えられた。この過程における脳機能の変化をみることは、宇宙のような微小重力環境でヒトが長期間滞在するときの平衡適応過程に関わる脳機能変化を推測する手だてとなると考えられた。 第一段階として一側迷路機能破壊後の平衡回復過程(前庭代償)において、脳の細胞内情報伝達の重要な酵素であるMAP(mitogen activated protein)kinaseやPKC(protein kinase C)がどのように変化し、前庭代償に関与しているかを検討した。ラットの一側迷路破壊後断頭し、脳を摘出後ホモゲナイズし、Western blotting法によりMAP kinaseの脳内変化をみた。MAP kinaseは前庭代償後に両側の脳で変化し、特にその変化は破壊側で強いことがわかった。今後はこれらの分子生化学的な脳内変化を両側迷路破壊後で検討する予定である。
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