1.人で声の高さを上昇させてゆく際、単位声門上下圧差あたりの音声基本周波数(Fo)の変化量(dF/dP)とFoの関係は、前者をy軸に後者をx軸にとった座長軸上でV字型を呈することを我々は既に発見している。 2.Foは振動物理の原則で(a)振動部の長さと(b)振動部の深さで決まる。我々は、1)で示したV字型の理由として「(a)(b)両者がFo決定に果たす役割は等分ではなく、低いFoでは(a)が優勢に、高いFoでは(b)が優勢にFoを決定している」との仮説を立てている。 3.本研究で観察された犬喉頭モデルでのdF/dPとFoの関係はこの仮説を支持した。 4.本研究で観察されたゴム膜声帯モデルでのdF/dPとFoの関係はこの仮説を支持した。 5.犬モデルとゴムモデルでの成果から振動部の長さの影響が強い程、dF/dPとFoが形成するV字の谷を深くし、振動部の浅在化の影響が強い程、V字の谷を浅くすることが予想された。 6.アトロピンの静注で声帯を乾燥させた際のdF/dPとFoの関係を検討したところ、低い周波数帯域でdF/dPの値が減少し、相対的にV字の谷が浅くなった。すなわち、声帯病変はFo制御の方法に変化を与えることが判明した。
|