研究概要 |
中耳再建手術によく用いられる人工耳小骨のApaceram(Ca_<10>(PO_4)_6(OH)_2:Ap,旭光学工業,東京)を生体内に埋め込んだ際の表面構造を長期にわたり観察した。Bioactive ceramicsであるhydroxyapatite(HA)を主成分としたApを中耳手術に使用する際の基礎的データを提供することを目的とした本研究の実績を報告する。 ラット65匹の皮下にApの小円板を埋め込み実験Iでは,6,14,20ヵ月後に摘出し,埋め込んだAp表面を実体顕微鏡,走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し,レーザー・ラマン分光光度計を用いて分子レベルで測定した。SEMと実体顕微鏡によれば,Ap表面は進行性破壊のあと,再沈着を示した。実体顕微鏡下に観察できるAp表面の白色部分と灰白色部分において測定したラマン・スペクトルを比較した。その結果,灰白色部分においては14ヵ月後に脱ミネラルが,20ヵ月後には再結晶が,他方,白色部分においては6ヵ月後に脱ミネラルが,14ヵ月後には再結晶がそれぞれ起こっていることが証明された。前述の再結晶に関して,実験IIでは2週間〜20ヵ月間,Apに接した皮下組織の病理組織学的標本を検討した。その結果Apを取り巻く線維性被膜の幅は埋め込み後,時間の経過とともに厚くなり,コラーゲン(線維細胞)に富んだ組織がApに接していた。このような環境下でイオンの濃縮が起こりAp表面におけるミネラルの再結晶に大きく関与していることが判明した。実験IIでは1995年に提唱のApモデル(科研:基盤研究(c)(2)No.07071860)を病理組織学的に裏付けることとなった。Apではこのように再結晶が生体内で生じるため,ほぼその原型を保つことができるので,再建手術に有用であると結論した。 実験IIIではAp小円板をラット32匹の中耳骨胞の外側面の骨に接して埋め込んだあと,組織反応を9ヵ月間観察した。その結果,1)中耳骨胞の骨溶解所見はみられず,2)90日以後は炎症反応は消失し,3)180と270日後にはApは中耳骨胞に接して安定してとどまっていた。以上より,Apは中耳再建手術に使用しても満足すべき人工材料で,高度な組織適合性を示した。
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