現在人工中耳の刺激部位としてアブミ骨が用いられているが、本研究はアブミ骨以外に音を内耳に伝えるための経路として蝸牛骨壁、内耳開窓部、正円窓などの可能性を検討することである。実験には家兎10羽(10耳)を用い蝸電図にて聴力が正常であることを確認した後、振動子先端をキヌタ骨に接触させ、ツチ・キヌタ骨を除去したのちアブミ骨を振動させ聴力閾値を測定した。さらに、鼓室岬と蝸牛窓も同様に刺激し域値を測定した。蝸電図の測定には誘発電位測定装置を用い、刺激はFiltered clickにて周波数は2kHzから31.5kHzまでとした。振動子による刺激の際は、メインアンプのイヤホンへの出力端子に振動子を接続し、閾値はその出力(Vp-p)で示した。なお、振動子は圧電素子を用いており、その感度は2kHzにおいて107dBSPL/1Vrmsであった。経外耳道的に音刺激を与えた場合に家兎の聴力で最も閾値が低かったのは12.5kHzで、その値は5dB peqSPLであった。それぞれアブミ骨、キヌタ骨長脚、蝸牛窓、鼓室岬を振動子にて刺激した場合の振動聴覚閾値をメインアンプから振動子への出力電圧(Vp-p)で検討すると、キヌタ骨長脚を刺激した場合とアブミ骨を刺激した場合の閾値はほぼ同じであったが、蝸牛窓刺激では鼓室岬刺激の閾値とアブミ骨刺激の中間の値を示し、12.5kHzにおいて0.68Vp-pであった。また鼓室岬刺激では12.5kHzでは3.86Vp-pであった。このことより蝸牛窓膜刺激でも十分聴覚を得ることが可能であることを解明した。
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