1.人工中耳の刺激部位としてアブミ骨が用いられているが、アブミ骨以外に音を内耳に伝えるための経路として蝸牛骨壁、内耳開窓部、正円窓などの可能性を検討した。実験には家兎10匹を用い、聴覚域値は蝸電図を用いた。音刺激を行う振動子は圧電素子を用い、その出力は2kHzにおいて107dBSPL/1Vrmsである。振動子にてキヌタ骨、アブミ骨を振動させ、さらに鼓室岬、蝸牛窓を刺激し、聴覚域値を測定した。その結果、キヌタ骨を刺激した場合とアブミ骨を刺激した場合の域値はほぼ同じであったが、蝸牛窓の刺激では鼓室岬を刺激した時の閾値とアブミ骨刺激時の中間の値を示し、12.5kHzにおいて0.68Vp-pであった。また鼓室岬刺激では12.5kHzでは3.86Vp-pであった。このことより蝸牛窓膜の刺激でも十分な聴覚を得ることが可能であることを解明した。 2.耳硬化症に対する人工中耳の応用の可能性を検討するために実験的にアブミ骨固着モデルを作成し、蝸牛に開窓を行い振動子にて膜迷路を直接刺激することにより聴覚を得ることが可能か検討した。実験には体重2.0〜3.6kgの家兎8羽を用いた。アブミ骨固着モデルとしてグラスセメントにてアブミ骨上部構造および底板を固着させた後、基底回転に相当する蝸牛の位置に直径0.5mmの大きさで開窓した。固着させたアブミ骨を刺激した時に域値の上昇が認められ、開窓部を刺激すると良好な域値が得られた。このことよりアブミ骨固着症には蝸牛に開窓を行い、人工中耳の振動子にて刺激することで良好な聴覚が得られることを証明した。
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