研究概要 |
本年度はまず正常人に対して回転刺激(0.2Hz,角速度57度/秒,8分20秒)を加えて血圧、末梢血流量を持続的に測定すると共に、スペクトル解析法を用いてαおよびβ交感神経、副交感神経の活動を測定した。α交感神経成分は回転刺激中には変化しなかったが、刺激終了7分後より上昇し、その上昇は70分まで続いた。β交感神経成分もα交感神経成分とほぼ同様の経過で上昇した。これに対して副交感神経成分は回転刺激中には変化しなかったが、刺激終了7分後より低下し、その低下は70分まで続いた。血圧は回転刺激直前に軽度上昇したが、刺激開始と共に刺激前の値に復し、その後も上昇・下降も示さなかった。ただ有意差はなかったが、刺激後は刺激前に比較して3mmHg程度血圧が上昇していた。末梢血流量は刺激開始直後に一過性に減少したが、3分後には前値に戻り、刺激前より若干低い値で安定していた。続いて刺激の強度を0.4Hzに増強したところ、刺激中にα交感神経成分の有意な低下をみたのみで、刺激後の値は刺激前と変化なく、β交感神経成分、副交感神経成分は、刺激中、刺激後にわたり、変化を認めなかった。刺激強度を0.1Hzに下げるとαおよびβ交感神経、副交感神経成分のいずれも変化しなかった。次にカロリック刺激(20℃冷水)を行い、上記と同様の測定を行った。α交感神経成分は刺激1分後に有意に低下した後次第に前値に戻ったが、β交感神経、副交感神経成分には有意の変化を認めなかった。血圧は刺激直後より下降し、1分後の下降は25mmHgに及んだ。その後徐々に上昇し、4分までには前値に戻った。末梢血流量も刺激直後より減少し、血圧とほぼ同様の経過で刺激前のレベルに戻った。 この様にスペクトル解析法を用いることにより血圧や末梢血流量の測定ではわからなかった自律神経の活動変化の詳細を捉えることが可能であることが判明した。また自律神経の応答様式も前庭刺激の種類により様々であり、時には正反対の応答をすることも判明した。
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