研究概要 |
平成11年度は,平成10年度の研究実績を基に,引き続き遠隔地に在住する該当者の調査を行うこと,およびそれらの結果の検討を行った。 該当症例名簿の再検討を行い,筋皮弁もしくは皮弁による再建術当時70歳以上の症例に絞りこんだところ,該当症例数は7例であった。遠隔地に在住している該当者は,今年度は国頭地区に在住の1例のみで,離島には該当者はなかった。(前年度の該当者(南大東島在住)は,腫瘍の遠隔転移により死亡)。 この7名について,筋皮弁もしくは皮弁採取により,術後に変化が生じているか否かについて,聞き取り調査のほか,2点弁別能による知覚・握力およびサーモグラフィによる体表温度の非採取側との差について検討した。 日常動作については,全例で本人・家族ともに術前後の変化を感じないとの返答であった。知覚・握力の測定においても,同様に全例で非採取側との差は認められなかった。また,実際の運動評価として,木村・岸本らのスコアを用いた評価も行ったが,全例で満点の評価を得た。聞き取り調査において,1例のみが術後採取側の腕のこわばりが持続しており,特に朝に憎悪すると返答したが,その症例においては,サーモグラフィによる経時変化の観察において,採取側の上肢の温度低下が認められた。この原因については,同側で施行されている頚部郭清の影響についても否定できないため,不明である。しかし,これまで不定愁訴とされてきたこのような訴えに対し,サーモグラフィで具体的な変化を認めたことにおいては,今後の病態解明に対して何らかの手がかりとなりうると考えられた。 以上の結果から,高齢者における筋皮弁・皮弁挙上術は,身体機能を損なうおそれは少なく,むしろ術後の離床を早め,QOLの向上に有用であると考えられた。(平成11年10月 第12回日本口腔咽頭学会で報告)
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