はじめに:内耳局所での自己免疫傷害による疾患の病態および発症機序の解明、治療法開発を実験的自己免疫性迷路炎モデルの開発を通じて行うことを研究の目的とする。これまで雑系実験動物を用いたモデル開発の報告はあるが、いずれも再現性に劣り、また免疫学的解析には適していなかった。従って、再現性があり、詳細な免疫学的解析の可能なモデル動物の開発が望まれる。本研究においては、近交系動物であるC57BL/6マウスをモデル対象に選択し、研究を進めてきた。内耳抗原には牛側頭骨膜迷路組織のSDS可溶性分画を用い、感作時にはSDSを取り除いて使用した。昨年度まで細胞性免疫傷害による自己免疫性迷路炎モデル作成を目指した。cycylophosphamide腹腔前投与し、そして2日後、抗原を完全アジュバントに混ぜ、全身皮下数カ所に感作したその結果、感作1-2週後をピークとするリンパ球、単球、多核球の浸潤遊走が内耳に限局して誘導された。また、神経組織変性や内リンパ水腫形成などの形態的傷害の発生も認めた。そこで、本年の研究においては、この迷路炎が自己免疫性迷路炎であること、そしてこの迷路炎の発症に関わるリンパ球の性状を明らかにする目的でこれら内耳へ浸潤遊走するリンパ球の表面抗原の解析を経時的に検索した。方法:これまでと同様にモデル動物を準備し、経時的に側頭骨を採取し、連続凍結切片標本を作製し、内意浸潤リンパ球の表面抗原を単クローン抗体を用いて免疫組織化学的に染色し、解析した。結果:正常内耳の蝸牛、前庭にはリンパ球は常在せず、唯一内リンパ嚢に極めて少数のCD11b、CD3、CD4、CD45R/B220細胞を半数の動物にみた。しかし、内耳抗原感作4日目には蝸牛、前庭、内リンパ嚢へのCD11b、CD3、CD4細胞の浸潤遊走がはじまり、7-10日目でピークとなり、CD4細胞は35日目でも内耳遊走が持続していた。本来の細胞傷害性リンパ球であるCD8a細胞は感作10日目に少数の一過性の内耳浸潤遊走にとどまった。B細胞であるCD45R/B220の蝸牛前庭への遊走は感作21日目以後であった。結論:本研究の結果は、この自己免疫性迷路炎の発生においてCD4リンパ球が細胞傷害性リンパ球の役割を担い、CD8aリンパ球はこの迷路炎の抑制に作用したと推察された。
|