本研究は再現性が高く、かつ詳細な免疫学的解析が可能な近交系実験動物での実験的自己免疫性迷路炎モデルを開発することを目的とした。サイクロフォスファマイドの前処置し、牛膜迷路抗原をフロイント完全アジュバントと混ぜ、全身皮下に単回感作すると一過性の炎症細胞浸潤が内耳のあらゆる領域で発生した。この反応は全例に起こり、12日目をピークとする。感作リンパ球の受動感作が成立する。多数のCD4陽性(ヘルパ-T細胞)でIL-2陽性、IFN-γ陽性細胞(Th1)が内リンパ嚢を中心に、感作4日目から観察最終日の35日目まで浸潤した。一方、極少数のCD8陽性細胞、細胞傷害性T細胞が感作10日目に浸潤し、早々に消退した。これらの結果、Th1細胞が実験的自己免疫性迷路炎の発症を即ち初期病態を介在すると示唆された。また繰り返し内耳抗原を感作すると内耳に対する抗体が産生された。ウエスタンブロット法では、感作動物の血清中には牛内耳抗原45kD、66kD、200kDを認識する抗体が全例に検出された。さらに感作動物の内耳組織、とくに血管条血管や骨迷路血管へのIgGの沈着を全例に認めた。これらの結果は頻回の抗原暴露で血清内耳抗体の産生があり、実験的自己免疫性迷路炎の慢性期における内耳自己抗体の病態への関与を示唆する。内耳免疫傷害の機序として一酸化窒素による傷害、アポトーシスによる変性、さらに交感性迷路炎発症を示唆する結果を得た。
|