虚血性網膜疾患の代表として糖尿病網膜症が代表的でよく知られているが、加齢黄斑変性も最近局所に低酸素領域が存在することが疑われている。臨床的にもインドシアニングリーン造影検査にて脈絡膜血流の遅延で低酸素状態が疑われる症例が存在する。さらに我々は加齢黄斑変性をはじめさまざまな眼内増殖疾患の増殖膜に発現するサイトカイン遺伝子の変化を確認してきた。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などは、加齢黄斑変性症の増殖膜などに有意に増加していることが判明したが、今回in vitroの実験でも低酸素でVEGF遺伝子の発現が強まることを確認した。それ以外にも各種増殖膜に脳由来神経成長因子(BDNF)など様々のサイトカインが多数発現していることが判明した。一方網膜虚血の実験より網膜内層とくに神経節細胞やアマクリン細胞は初期に障害される代表的な細胞として知られる。BDNFなどは神経節細胞やアマクリン細胞の保護効果があることが予測されたため、BDNFcDNAを虹彩色素上皮細胞(IPE)に導入しBDNF遺伝子ならびに、その蛋白質の発現がコントロールよりも有意に多く発現している細胞を利用して虚血による網膜細胞の障害に保護効果があるかどうかを確認してきた。また、in vivoではこの遺伝子導入細胞は視細胞外節の貧食能を強調することも判明した。実際にこれらの研究の一部は当教室で施行してきている加齢黄斑変性の自己虹彩色素上皮細胞移植にも利用された。今回の研究は虚血性疾患が対象であったが、以前も報告しているように移植につきまとう拒絶反応が、採取のしやすい自己IPEの利用により改善されること以外に、さまざまな眼疾患の遺伝子治療を将来めざす場合の重要なステップにもなる可能性があると考えられた。
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