研究概要 |
1997年,ケラトエピセリン(βig-h3)という物質の変異が原因で,4つのタイプの異なる角膜変性症がひきおこされることが報告された。われわれは本邦の角膜変性症患者78家系を対象としてケラトエピセリンを候補遺伝子とした分子遺伝学的解析を進めていく過程で,本邦特有の多くの新知見を得ることができた。(1)臨床的に顆粒状角膜変性症と診断されていた症例の90%以上が,遺伝子レベルでは,アベリノ角膜変性症の変異R124H(124番のアルギニンがヒスチジンに変異)を持っていた。(2)本邦に戦前に多いとされたいとこ結婚に起因する臨床的に重症なホモ接合体症例を発見し報告した(Am JOphthalmol,1998.Invest Ophthalmol Vis Sci,1998.)。(3)格子状角膜変性症III型の原因遺伝子変異P501T(501番めのプロリンがスレオニンに変異)を発見し報告した(Am JHum Genet,1998.)。本症はI型に比べて,格子の線が太くて,縄状にうねっているのが特徴で本邦には症例数が多いが,欧米では稀である。(4)従来,ライスビュックラーズ角膜変性症とひとまとめにされていた疾患では,遺伝子解析の結果,全く異なる2つのタイプがあることを発見し,報告した(Am J Ophthalmol,1998.)。 その他,これまで全く原因不明とされてきた膠様滴状角膜変性症という最も重篤な遺伝性角膜変性症患者の原因遺伝子座が,第一染色体短腕にあることを発見するに至った(AmJ Hum Genet,1998.)。 網膜疾患に関しては,現在のところ症例を集積している段階で,遺伝子解析を施行するに至っていない。これまでに,網膜色素変性症および類縁疾患を約100家系から染色体DNA抽出用の採血に協力いただいた。
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