研究概要 |
ヒト水晶体可溶性画分のアスコルビン酸フリーラジカル(AFR)還元酵素は,アスコルビン酸を還元維持する重要な酵素であるが,ジアフォラーゼ活性をも有しており,分子多様性に富んでいる。 昨年度は,手術で得られたヒト白内障水晶体の可溶性画分から最終的に2次元電気泳動にて多くのアイソフォームを得て,2〜3のアイソフォームについて単一蛋白質にまで分離したが,試料不足のためアミノ酸配列などの分析は成功しなかった。本年度は,ウサギ水晶体可溶性画分よりAFR還元酵素をゲル濾過カラムクロマトグラフィー,続いて,2次元電気泳動にて分離を行った。ウサギの本酵素はヒトの場合に比ベ,かなり高い等電点を有していたが,やはりβ/γ-クリスタリンと類似した大変高いヘテロジェニティーを示した。2次元電気泳動後,ウサギ本酵素由来の2〜3の単一蛋白質についてプロテアーゼによりフラグメント化をし,得られたペプチドのアミノ酸配列の分析を試みたが,末だに結果を得るにはいたっていない。 なお,本年度はさらに,各種動物水晶体の可溶性および不溶性画分についてもAFR還元酵素活性ならびにジアフォラーゼ活性の定量を行った。その結果,水晶体AFR還元酵素は可溶性と膜結合性の2種類に大別され,それぞれジアフォラーゼに対する活性比が異なるなどの理由から異なる分子種で異なる役割を果たすと推察された。可溶性AFR還元酵素は近紫外線フィルター機能を有する動物種(ヒト,カエル,モルモット,ウサギ)で高活性であったが,膜結合性のものは活性の種差が小さく,膜周辺のオキシダント還元およびアスコルビン酸還元維持の役割を有すると考えられた。水晶体AFR還元酵素の分子多様性は,光化学反応や細胞膜周辺で生ずる広範囲のオキシダントを還元処理するため適応した性質と考えられるが,結論を出すにはさらなる検討が必要である。
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