研究概要 |
ベーチェット病患者血清中の抗網膜自己抗体の一つは抗網膜HSP60抗体である.患者は口腔内に再発するアフタや抜歯を契機に眼発作が起こるため、そこに常在する溶連菌が重要と考えられてきた。Sangius溶連菌HSPに対して特異的なγσT細胞も検出されている。エルシニア、溶連菌、網膜芽細胞腫および網膜のHSP60に対する免疫応答を検討したところ、抗網膜HSP60ならびに抗溶連菌HSP60に対してベーチェット病では著しい抗体価の上昇を示す.また,網膜HSP60をラットに接種すると平均12日目にぶどう膜炎が起り、組織学的に松果体炎を伴いにくい点でS抗原やIRBPによるEAUと相違した. ベーチェット病ではHLA-B51が疾患感受性であるとの報告はある.一方,その炎症はCD4陽性T細胞によるとされるが,それを誘導するHLA classII・自己抗原ペプチド複合体の様子は,今まで自己抗原が明確に同定されていなかった.ベーチェット病の自己抗原は網膜HSP60と考え疾患機序解明や治療法へのフィードバックを目的に本実験を計画した. 平成11年度に明らかにした点は,網膜と溶血連鎖球菌S.pyogenesのHSP60がベーチェット病の発症に関わると考え,その性状を分子生物学的に解析した点である.すなわち,S.pyogenesから抽出したDNAとウシ網膜cDNA libraryを鋳型にHSP60遺伝子領域をpolymerase chain reaction法で増幅し,増幅された断片をDNAシークエンサーにて塩基配列を決定し,アミノ酸の配列を推定した.解析結果をもとにペプチドを合成した.ペプチドを完全Freundのアジュバントと混和し,ラットに接種して実験的ぶどう膜炎が発症するか否か検討した.その結果,ウシ網膜およびS.pyogenes HSP60について,約200残基の内部配列を決定した.その結果,両者の配列は47%相同した.主として,ヒトHSP65の245-259番に相当する網膜HSP60と溶連菌HSP60のペプチドで実験的ぶどう膜炎の発症がみられた.網膜とS.pyogenesのHSP60のアミノ酸配列をもとに,ベーチェット病の発症機序を今後も検討することは,意義あると考えた.上記の結果を論文にまとめ,題:網膜及び溶連菌HSP60の分子生物学的検討.筆者,田中ら,日本眼科学会雑誌に投稿し,平成12年1月に同誌に受理された.
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