レンズ初期発生において正常な形成と機能獲得には、様々な固有タンパク質の遺伝子の時間的空間的な協調的発現が必須である。比較的最近発見されたレンズ特異タンパク質フィレンシンは、細胞骨格としてレンズの形態形成に関わると同時に、CP49やαクリスタリンと「ビーズ状線維」を形成しレンズ透明性の維持にも関わると考えられている。Eloマウスなどの遺伝性白内障/小眼球症マウスでは、フィレンシンの発現異常により線維細胞が伸張せず、レンズ正常発生が行われないことが観察される。また最近、細胞障害によって活性化されたCa2+依存プロテアーゼによるフィレンシンの特異分解や、小児白内障の一部の症例でフィレンシンの著明な減少が報告されている。このことからフィレンシンがレンズ細胞分化や小眼球発症に深く関わっていると考えられる。小眼球症の一次的な要因は多伎にわたると考えられるが、その発症を統一的に理解するために、この遺伝子の発現機構を知ることは意義深いと思われる。 昨年度はフィレンシン遺伝子の5'-上流域に、遺伝子プロモータ領域を見つけ報告したが、今年度は領域内いずれの20bpを欠失させても活性が失われるような最短配列を決定し、プロモータ「活性コア」と定義した。「活性コア」をルシフェラーゼ遺伝子の上流に入れ込んだレポータプラスミドを作成し、レンズ由来株細胞や非レンズ株細胞に導入したところ、いくつかの非レンズ株細胞でプロモータ活性を示した。従ってフィレンシン遺伝子にはレンズ特異発現を司る配列(シス因子)が別に存在することが示唆された。そこでマウスとラットフィレンシン遺伝子の制限酵素切断による断片と「活性コア」を挿入したレポータプラスミド群を構築し、シス因子の検索を行い、プロモータより約6.5Kb5'-上流の領域にレンズ特異発現を司る活性を示す配列を見つけた。
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