研究概要 |
ヒトレニンプロモーターとadenovirus12型E1の融合遺伝子を組み込んだtransgenic(TG)マウスでは,約90%に特異的にPNETが発生する。この腫瘍は神経腫瘍マーカーを用いた免疫組織染色でPGP9.5とneurofilament proteinに陽性、MIC gene product(MIC2)に陰性であった。MIC2はヒトPNET/Ewing肉腫できわめて高率に陽性となり、その蛋白は30kDaと32kDaの、細胞膜表面に存在するglycoproteinである。そこで、ウェスタンブロット法によりTGマウス発生腫瘍中のMIC2蛋白の有無を調べた結果、30kDaと32kDaのMIC2蛋白が産生されていた。PNET/Ewing肉腫では、特異的な染色体転座t(11;22),t(21;22),あるいはt(17;22)と、それに伴うキメラ遺伝子EWS/FLI1,EWS/ERG,EWS/ETV1あるいはEWS/E1AFが見いだされ、RT-PCR法によるキメラ遺伝子の検出がPNET/Ewing肉腫の診断にきわめて有用である。TGマウス発生腫瘍からmRNAを抽出後cDNAを合成し、各キメラ遺伝子の領域のプライマーを用いてPCRを行ったが、TGマウスの腫瘍からは、いずれのキメラ転写産物も検出されなった。さらに、ノーザンブロット法で、RNAレベルでのTGマウス腫瘍のEWS変異を調べたが、腫瘍のEWSに異常はなかった。したがって、TGマウスに発生するPNETでは、ヒトで見られるEWS遺伝子とETS family遺伝子の融合は生じていないと考えられた。99年9月のNature Medicine誌でSanchez-Prieto等は、ヒトadenovirus5型のE1A遺伝子を導入、発現させたヒトのfibroblastやkeratinocyteで、PNET/Ewing肉腫に特異的な融合転写産物であるEWS-FLI1を検出したと報告し、E1Aが染色体転座t(11;22)を起こした可能性を示唆した。この論文に対しては反論も多く、結論は出ていないが、adenovirus12型E1を組み込んだ我々のTGマウスに発生するPNETでも、EWSのようなRNA結合遺伝子と未知のETSfamily遺伝子が融合している可能性はあると考えられる。
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