研究概要 |
神経芽腫は、小児外科の主要な疾病である。早期例の中に自然治癒があることから、手術適応に迷ううケースがある反面、進行症例では集学的治療にも係わらず不幸な結果におわるケースも多い。我々は、分子生物学的手法を用いてこの腫瘍の病態に迫ろうとしてきた。一連の研究成果より神経芽腫の予後にNGFR(Trk A,nerve growth factor receptor,神経成長因子)の関与が明らかとなり、予後判定法として臨床予後がなされつつあるが、さらに、このレセプターのNGF感受性がganglioside GM1との相互作用で制御されていることも明らかにした。そこで、この知見を新臨床診断、新分化療法の開発に結びつけるべく、萌芽研究の成果を発展させさらなる研究を行った。本年度においては、NGFR(TrkA)のGM1との相互作用の解析を主眼として、GM1とNGFレセプターの細胞内局在を共焦点レーザー顕微鏡を用いた蛍光抗体法とシュクロース濃度勾配超遠心法で検討し、NGF反応性のPC12細胞と神経芽腫細胞NB-1では、細胞表面の両者の局在が異なることを見出した。 また、PC12細胞に人のNGFRをリポフェクチン法で強制発現させた細胞を用いて、検討した結果、このNGFRにGM1が結合していることから、NGFRの種の違いがGM1との相互作用に関係していないことも明らかになった。これにより、実験動物系での予備研究の臨床応用へ向けた展開における問題点の一つが解決できた。 さらに、NB-1細胞にも内在性のtrkAと区別するためmyc-hisタグを付けた組み替えtrkA遺伝子の導入、強制発現を試みており、この系の確立によって、GM1-NGFR相互作用を応用した遺伝子治療の方向性を検討しようとしている。 また、細胞表面の局在機構一つであるカベオリンの関与の検討を行い、本系に関与しないことを確認したが、近年注目を集めているrafs(細胞表面脂質局在構造)の関与は否定できず、詳細な検討を行っている。 なお、以上の成果の一部はすでに98年札幌での小児癌学会において発表した。
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