研究概要 |
小児外科領域の様々な先天性消化管奇形に脊椎骨(頸〜仙椎、尾骨)の形態異常を合併することは、臨床上しばしば経験されてきた。直腸肛門奇形における仙尾骨形成異常、食道閉鎖症や気管無形成における胸椎の数や形態の異常,消化管重複症における胸腰椎異常(二分脊椎)など、病態と呼応する体節レベルでの形成異常の存在は、胎生早期の発生異常がこれらの疾患の発生に深く関わっていることを示唆しており、その詳細な解明は小児外科研究における懸案となってきた。今回の研究課題では、直腸肛門奇形や気管無形成、腸管重複症など小児外科疾患と病態発生が呼応すると考えられる椎体や神経系の発生異常を生じる病態発生機構について胎生学的に研究を行った。 これまでに明らかにされている体軸・体節決定遺伝子や前癌遺伝子群が先天性疾患の原因遺伝子としてはたらく可能性についての検討として、RET,EDNRB,SOX10,PAX3,Shh,Wntほか複数の遺伝子変異における関与を明らかにした。さらに、これらの所見を胎生期における病態発生上の観点から検討するため、特に仙尾部体節の決定に始まる直腸肛門の発生の鍵を握る因子としてHox遺伝子からレチノイン酸を介したシグナル伝達系に着目し、胎生期における形態学的所見を明らかにした。すなわち、HoxやPaxなど体軸・体節決定遺伝子の関与によって進む形態形成プロセスの根幹におけるレチノイン酸(RA)および特異的レセプター(RAR-α,β,γ)の発生学的動態について検討し、直腸肛門奇形やヒルシュスプルング病類縁疾患の発生との相関においてその変異を明らかにすることが出来た。今後はさらに、これらの所見をもとにして、幹細胞システム樹立による間葉系細胞の多種細胞への分化増殖能のコントロール法の樹立に向けて、治療学的観点からの臨床応用への展開を視野に入れた研究を展開していきたい。
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