過去2年間にわたって行ってきた実験結果のまとめと追加実験を主体として今年度の研究成果を総括した。その結果、以下の点が主な研究実績としてあげられる。 1.ラットを使って、従来の報告にあるcryopreservation法より簡便な凍結方法を採用した。その結果、比較的口径の大きな(口径1.5mm以上)血管の凍結保存にはプログラミングフリーザーを利用するような凍結保存処理は必要なく、十分な凍結保護処理がなされていれば凍結による血管の破壊は許容範囲内であること。特に動脈においては簡易法で十分な結果が得られる。しかし、その場合、血管の活性の低下は避けられない。 2.同種異系ラット間の移植結果より、凍結保存された血管は移植後に何らかの免疫反応を引き起こすが、免疫抑制剤を使用しなくとも、短期的には拒絶されないことから、免疫学的寛容の状態が出来上がっていると考えられる。しかし、長期的には次第に移殖側の抗原性に侵食され(置き換わり)、従来の免疫学ではなかった慢性的拒絶の過程が成立すると思われる。 3.移植後の血管の内膜の再生は移植側の血管から連続的に上皮化すると思われ、走査電顕により観察できたが、その再生の過程を客観的な絶対値で示すようなデータ化は時間的・経済的に達成できなかった。凍結により軽度ながらも破壊された血管構造が移植後に修復されていく様子は透過型電顕で観察できたが、その修復因子の由来と詳しい過程については更なる研究が必要である。 4.凍結保存された同種血管移植は十分に臨床応用が可能であると考えるが保存前後のウイルス検索、効率的手技の確立、保存状態の同一化などつめるべき課題も残された。
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