研究概要 |
Egr-1は培養線維芽細胞においてはほとんど発現が認められなかった。そこで、ラット皮膚切開創モデルにおいてin vivoにおけるEgr-1の発現を再検討した。その結果、創辺縁の真皮内細胞に創作成4時間ころより強い発現が認められた。この細胞は血球由来マクロファージと思われ、発現は極めて一過性で術後1〜2日にピークに達し、創が上皮化する術後3日には既にほとんど認められなかった。創には遅れて組織マクロファージが浸潤してくるが、この細胞にはEgr-1の発現を全く認めなかったことから、血球由来マクロファージにおけるEgr-1の発現は特異的であった。また、創内および周囲真皮組織における線維芽細胞にはEgr-1の発現がほとんど認められなかった。TGF-βは創作成直後に創縁の線維芽細胞の発現が低下することも認められた。術後3日ころから創内では線維芽細胞の増殖が認められるが、免疫組織学的にはこれらの細胞におけるEgr-1やTGF-βの発現は正常真皮の線維芽細胞における発現と同程度であった。一方、表皮細胞では線維芽細胞よりも強い発現が認められた。ヒトにおいて,線維芽細胞が脱分化している可能性があるのは未熟な肉芽組織であり、逆に再分化していると考えられるのは瘢痕組織やケロイドであるが、炎症細胞が多い肉芽組織においてもEgr-1の発現は全く認められなかった。これに対して、表皮細胞では線維芽細胞よりも明らかに発現が認められた。すなわち、予想に反して結合組織におけるTGF-βやEgr-1の発現は表皮に比べて著しく低いことが示唆された。そこで、実験では、表皮細胞におけるTGF-β関連物質の発現の消長をより正確に組織学的に検討した。その結果、TGF-β各isoformは全て発現が認められ、さらに、その細胞内シグナル伝達系物質であるSmads,Tak-1の創傷治癒過程における消長が判明し、TGF-βの細胞内シグナル伝達系がin vivoにおいて初めて確認された。
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