研究概要 |
1 ここ数年、齲蝕をはじめようとする口腔細菌性疾患や口腔細菌叢の解析手段として分子遺伝学的手法が広く用いられるようになった。本研究では、齲蝕の進行程度、進行速度の異なる3名の患者より象牙質試料、プラークを採取し、PCR-16SrDNA解析により、それぞれの細菌叢を調べた。解析の結果、どのサンプルからも、これまで口腔よりの分離報告例の少ないものや、あるいはデータベースに登録された既知細菌と相同性の低いものを含め極めて多様な細菌が検出された。浅在性の齲蝕からはStreptococcus,Actinomyces等の分離頻度の高い細菌をはじめ、広範な菌種が検出されたのに対し、象牙質に至る急性の深在性齲蝕からはLactobacillusが高頻度に検出された。一方、深在性の象牙質齲蝕ではあるが、進行速度の遅い、別患者の齲蝕部位からは、齲蝕原生細菌として、Actinomyces,S.oralis,S.cristatusといった菌種が検出された。齲蝕部位においても、その進行の程度や進行速度により細菌叢が大きく異なる結果が得られた。 2 特定細菌の検出を目的に、実習学生を対象に歯周病原細菌のPCR検出を行った。3年度にわたり、異なる学生集団について調査を行ったところ、培養法では分離できなかった若年性歯周病原細菌Actinobacillus actinomycetemcomitansが20〜30%という比較的高い検出率を示した。 以上のように、分子生物学的アプローチによる研究手法は口腔菌叢についての新たな知見をもたらした。遺伝子学ならびに分子系統学的解析手法は、今後ますます口腔内細菌叢の解析に有効な手段として活用されてゆくものと期待される。
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