胎生16-生後21日までのラット口蓋粘膜におけるメルケル細胞の発生と分化について免疫組織化学的並びに透過電顕的に研究した。抗-サイトケラチン18(CK18)をマーカーとした場合、胎生16日頃から口蓋ヒダ原基にやや大型の陽性細胞が出現し、その数は胎生18日頃ピークに達し、その後出生時までに急速に消失した。これらの細胞は抗-サイトケラチン20(CK20)には陰性で、電顕的には未分化な味蕾細胞の特徴を示した。一方、口蓋ヒダ側壁上皮には生後4日頃から、硬口蓋後方のデルタ状領域には生後10日頃から小型のCK18陽性細胞が新たに出現し、日を追って数が激増し、生後3週までに成体と同等の密度になった。これらの小型CK18陽性細胞はCK20抗体にも陽性を示し、電顕的にメルケル細胞であることが確認された。ラット外皮のメルケル細胞は胎生16日に出現することが知られており、口蓋におけるメルケル細胞のこのように遅い出現は興味深い新知見である。味蕾様細胞が存在する胎生期の口蓋ヒダでは粘膜固有層に神経成長因子受容体の一つであるp75NGFRの免疫陽性反応が見られたが、生後になると反応の局在は上皮基底層に移行した。しかしその反応は固有層乳頭円蓋部では強いものの、メルケル細胞周囲では微弱であり、この物質がメルケル細胞の分化に関る可能性は薄いと思われた。メルケル細胞増殖期間の口蓋試料に対する抗Ki67や各種細胞分裂阻害因子抗体と抗CK18との二重標識の結果、全CK18陽性細胞が抗-Ki67陰性、抗-Waf1(p27)陽性であることが判明した。この結果は細胞増殖期であっても既に分化したメルケル細胞には分裂能が無いことを示しており、メルケル細胞の分化機構を探るには、今後CK18発現以前の前駆細胞を同定するマーカー抗体の探索が必要であると思われる。
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