ラット口蓋粘膜におけるメルケル細胞の分化、維持に関わる因子、および細胞密度の生後変化について免疫組織化学的に検討した。抗-サイトケラチン18抗体をマーカーとしてメルケル細胞の分布密度を調べたところ、当該領域のメルケル細胞は生後10日頃から出現しはじめ、1ヶ月頃までに最大密度となり、その後急激に減少して生後3ヶ月目には最大時の10分の1程度まで密度が低下することが判明した。抗-サイトケラチン18とDNA Nick End Labeling法による二重染色により検討した結果、アポトーシスを示すメルケル細胞は認められず、生後30日前後から2ヶ月目までの口蓋ヒダ後方域の上皮には有棘層や角質層に多数のメルケル細胞の存在が観察されたことから、メルケル細胞は表層移動によって脱落して失われると考えられた。メルケル細胞の出現に先立ち、口蓋の当該領域には密な抗-CGRP陽性神経線維の分布が認められたが、その密度は生後14日頃をピークに漸減し、メルケル細胞密度が最高となる30日以降かなり希薄になることが判明した。この結果から、抗-CGRP陽性神経がメルケル細胞の分化と維持に深く関わっている可能性が考えられた。一方、メルケル細胞の分化や維持に対する神経栄養因子の関与を検討する一環として、NGFレセプターの局在と遺伝子発現を検討したが、関わりを示唆する明確なデータは得られなかった。
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