メルケル細胞は皮膚と口腔粘膜に分布する非角化性上皮細胞であるが、この細胞のライフサイクルは明らかではない。我々は、ラットの口蓋粘膜におけるメルケルの発生と分裂能、および生理的細胞死について研究し、以下の成果を得た。 (1)ラットの皮膚ではメルケル細胞は胎生期に分化し、出生前までにその数は相当数まで増加するが、口蓋粘膜では同細胞は生後しばらく経ってから出現し、その分布密度が最大になるまでに約1月を要する。しかも、皮膚のメルケル細胞は末梢神経が表皮に到達する以前に分化するのに対し、口蓋の同細胞は末梢神経終末の分化がほぼ終了した後に分化を始める。(2)この口蓋粘膜におけるメルケル細胞の生後分化と増殖は分化した細胞の分裂による可能性も考えられたので、抗-ki67抗体を用いて免疫組織化学を試みた。しかし、この抗体に陽性反応を示すメルケル細胞は見出されなかった。しかもメルケル細胞は細胞分裂阻害因子であるp27蛋白を発現しており、一度分化したメルケル細胞が分裂する可能性は低いと考えられた。(3)ラットの硬口蓋後方部では生後1ヶ月までに増加したメルケル細胞がその後減少し、生後3ヶ月までに最大事の5分の1以下になることが分かった。この細胞密度減少が生理的細胞死によって起こるか否かを、Nick end labeling法により検討したが、メルケル細胞には陽性反応は認められなかった。一方、生後1ヶ月前後の当該部位の上皮では、従来基底層に分布するメルケル細胞の一部が有棘層以上の層に分布するのが見られた。これらの結果から、メルケル細胞の減少は生理的細胞死ではなく、ケラチノサイトのターンオーバーにともなう剥離によると考えられた。(4)メルケル細胞の分化・増加が起こっているラットの幼弱期には硬口蓋後方部には極めて密度の高いCGRP陽性線維の分布が見られたが、細胞の減少が起こる少し前からこれらの線維は減少し始めることが判明した。この減少はメルケル細胞の増加や維持にこの神経がかかわる可能性を示唆すると思われる。
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