研究概要 |
破骨細胞の波状縁に局在する液胞型H^+-ATPaseの特異的阻害剤であるBafilomycin A1は、in vitroでの破骨細胞の骨吸収能を用量依存的に抑制する。しかしBafilomycin A1が、破骨細胞の構造と機能にいかに影響するかは明らかでなかった。一方矯正学歯科の領域では、歯槽骨の改造によって歯を移動するため、歯槽骨吸収の局所的な抑制が有用な薬理学的制御になる。そこで本研究は、ラット臼歯の実験的移動における破骨細胞の骨吸収活性に対するBafilomycin A1の影響を明らかにした。歯の移動実験はワルド法で行い、矯正力発現のために矯正用顎間ゴムをラットの上顎第1・2臼歯間に挿入し、ゴム挿入後にBafilomycin A1を腹腔内投与した。ゴム挿入後、4,7,14日後に臼歯の移動程度と歯槽骨の造状状態、破骨細胞の分布と微細構造、液胞型H^+-ATPaseの局在変化を、光顕、走査電顕および透過電顕で観察した。その結果、Bafilomycin A1は破骨細胞の波上縁形成を阻害し、また液胞型H^+-ATPaseの波状縁での発現を阻害することによって、用量依存的に歯槽骨吸収を抑制し、矯正学的な歯の移動を制御できることが明らかとなった。あわせてBafilomycin A1投与が破骨細胞以外の間葉細胞や上皮細胞に及ぼす影響を検討したが、破骨細胞におけるような抑制的な作用は観察されなかった。また、強力な骨吸収剤であるbisphosphonateが破骨細胞の骨吸収活性および液胞型H^+-ATPaseの発現に対する影響を解析したところ、、Bafilomycin A1の場合と全く同様の結果が得られた。
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