本年度は昨年度に得られたデータのまとめと論文作成、およびこのデータを基に軟骨魚類の歯牙歯胚基底膜の特徴を高分解能電子顕微鏡的に比較検討することを目的に研究を行った。 霊長類と齧歯類では、歯牙形成初期には内エナメル上皮の基底膜は明帯と基底板、これに付随する線維層より構成されている。高分解能電顕的ならびに免疫電顕的にこの線維はアミロイドPコンポーネントを主成分とする直径8〜15nmの管状構造(basotubules)を示し、これは結合組織に広く分布するmicrofibrilsと同様のものであることが理解された。幅1.5〜3nmのフィラメントがbasotubulesに直角に配列分布し、しばしばこのフィラメントと歯乳頭細胞突起の細胞膜との連結が観察された。フィラメントは免疫電顕的にフィブロネクチンであることが確認された。この所見から、基底膜の線維層はエナメル上皮と歯乳頭を結合するのみならず、細胞突起と強固に連結することにより象牙芽細胞の配列と分化にも重要な機能を担っていることが理解された。 一方、軟骨魚類の歯胚基底膜は明帯と基底板から構成され、先に述べた線維層は欠如していた。代わりに、基底板から歯乳頭に向けて比較的幅の広い基底板様の構造が網目状に垂れ下がり、しばしば歯乳頭細胞の突起を取り囲むように分布していることから、これが線維層と同じようにエナメル上皮と歯乳頭の結合および象牙芽細胞の配列・分化に関与するものと想像された。 以上の結果、高等動物の歯胚基底膜にみられるbasotubulesからなる線維層は高度に組織化された構造物であることが理解される。一方、軟骨魚類でみられる基底板様の網目状構造は線維層と比べるとややルーズな構造ではあるが、機能的には線維層と同じく細胞の分化に関与しているものと推測される。
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