1.霊長類と齧歯類の歯牙形成初期には内エナメル上皮の基底膜は明帯と基底板、これには付随する線維層より構成されている。高分解能電顕的にこの繊維はアミロイドPコンポーネントを主成分とする直径8〜15nmの管状構造(basotubules)を示し、これは結合組織に広く分布するmicrofibrilsと同様のものであることが理解された。幅1.5〜3nmのフィラメントがbasotubulesに直角に配列分布し、しばしばこのフィラメントと歯乳頭細胞突起の細胞膜との連結が観察された。この所見から、基底膜の線維層はエナメル上皮と歯乳頭を結合するのみならず、細胞突起と強固に結合することにより象牙芽細胞の配列と分化にも重要な機能を担っていることが理解された。 一方、軟骨魚類の歯胚基底膜では上記の線維層は欠如しており、代わりに基底板から歯乳頭に向けて比較的幅の広い基底板様の構造が網目状に垂れ下がり、しばしば歯乳頭細胞突起を取り囲むように分布していた。 2.歯の形成が進み成熟期になると、霊長類ではエナメル質とエナメル芽細胞の間に基底膜様構造が出現する。これは明帯、基底板及び幅約200nmの繊維状構造(第3層)に区別され、高分解能で後者2つには共に基底膜の基本構造である"cord network"を認めた。非脱灰切片で観察すると、第3層の全層と基底板の一部は石灰化し、最表層エナメル質を形成していることが示唆された。すなわち、成熟期の基底膜は細胞とエナメル質の結合を強固にする特殊な基底膜であり、エナメル質の成熟に深く関与していることが示唆された。以上、歯胚基底膜は歯牙の発生、分化、形成と成熟に重要であり、機能に応じた特殊な構造を発達させてきたものであると考えられる。
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