研究概要 |
マラッセ上皮遺残のシグナル伝達を解明する目的で、平成10年度には以下の結果を得た。まずブタの永久歯を用いて、ヘルトヴィッヒの上皮鞘からマラッセの上皮遺残になるのメカニズムを基底膜の観点から透過型電子顕微鏡ならびにラミニンを用いた免疫組織化学染色により検討した。その結果、歯乳頭の細胞が象牙芽細胞に分化し、象牙質の沈着が起こる部位で内側のエナメル上皮の基底膜の断裂が起こることが判明した。、次に、上皮性細胞が歯根膜内に存在する意義を細胞増殖およびアポトーシスの観点からPCNAおよびbcl-2を用いて検索した。その結果、bcl-2はへルトヴィッヒの上皮鞘の内側エナメル上皮に強く反応し、マラッセの上皮遺残で弱い反応が観察された。PCNAはへルトヴィッヒの上皮鞘には散在性に、マラッセの上皮遺残には認められなかった。つまり、ヘルトヴィッヒの上皮鞘の内側エナメル上皮は、歯乳頭の細胞を象牙芽細胞に分化させるために必要な伝達物質を分泌し増殖傾向にあり、マラッセの上皮遺残はアポトーシスを抑制することで、歯根膜内に留まり恒常性を維持する可能性が示唆された(JADR,1998)。さらに、マラッセの上皮遺残が炎症性刺激で活発に増殖し歯根嚢胞などの裏装上皮となるメカニズムを、培養実験により証明した。まず、ブタ由来マラッセの上皮細胞を培養し、細胞が接触していく段階でどのようにギャップ結合蛋白(Connexin32,43)が形成されていくかを共焦点レーザー顕微鏡、ならびにRT-PCR法により検索した。細胞が単独の場合には、コネキシンが細胞質内に存在しているが、接触を開始すると同時にコネキシンの発現が細胞間に現れ、細胞の増殖に伴いその数を増していた。RT-PCR法による検索でも同様にコネキシンの増加が見られた。つまり、なんらかの原因でマラッセ上皮遺残の増殖の引き金が引かれると、細胞内でコネキシンが産生され、増殖と共に細胞同志の間でギャップ結合の形成がおこり、重層扁平上皮化生を起こすと考察した(JADR,1998)。
|