研究概要 |
本研究では、口蓋裂を主要な表現型とする遺伝子改変マウスを実験試料に用いて、口蓋列の発症機構を調べていく。平成10年度においては、TGFβ3ならびにdeltaEF-1のノックアウトマウスを検索対象として、遺伝型の異なる動物でのMEE細胞接着と癒合に働く分子群の発現を比較し、口蓋裂発生の決定時期をin situと器官培養系で調べた。その結果,以下のことが明らかとなった。(1)野生型マウスにおいては,接着直前のMEE細胞ではアルシアンブルー陽性の糖タンパク、左右突起の接着・癒合時にはMEE・口腔上皮・鼻腔上皮にPAS陽性の糖タンパク(接着部分にDF3抗体陽性物質、癒合時のMEE細胞とその周囲細胞ではCD44陽性)が発現しており、接着と癒合時に発現する糖タンパクには時間的・空間的な特異性が認められた。(2)走査・透過型電顕による観察から、接着直前のMEE細胞の表面で多数の糸状仮足(filopodia)の形成とその先端でのプロテオグリカンが認められた。(3)TGF-β1,β3は口蓋突起の下方伸長時から癒合完了まで,MEE・口腔上皮・鼻腔上皮に限局して発現し,TGFβレセプター(I,II)も癒合時のMEE細胞と各上皮の周皮細胞に認められた。同時期の間葉組織にはこれらの発現や局在も見られなかったことから、TGFβは上皮細胞間での情報伝達を担っていると考えられた。(4)deltaEF-1のノックアウトマウスのホモザイゴート(-/-)においては,二次口蓋突起は発生初期でその形成の進行は停止または著しく遅延していることがわがった。次年度においては、これらのノックアウトマウスでの口蓋突起の癒合過程にみられる情報伝達カスケードの詳細と、その異常による口蓋裂の発症機序を究明していく。
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