エナメロイドは、大部分の魚類の歯、サメ類の楯鱗および幼生期イモリの歯の表面に観察される。一方エナメル質は、一部魚類の歯(ガーパイク)および鱗(ポリプテルス)の他に両生類以上の脊椎動物の歯に広く分布している。両者は共に高石灰化組織であり、前者は後者の前駆組織でその系統発生学的相同性も指摘されてきた。しかしながら最近の免疫組織化学的研究によると、エナメロイドにほ乳類型エナメルタンパク(アメロジェニン)の存在が確認されず従来の学説に否定的な実験結果が増えている。本研究では、幼生期イモリの歯(エナメロイドとエナメル質を有する)を中心に、エナメロイド基質の主要構成要素であるコラゲン線維が、間葉細胞と上皮細胞のどちらに由来するかを、type I collagen pro α1鎖mRNAの局在を検索することにより明確にした。プローブは、ヒヨコ皮膚type I collagen pro α1鎖の塩基配列を基に作製した。歯胚上皮細胞を含む口腔上皮細胞層、神経細胞、筋細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞内にシグナルは検出されなかった。しかしながら、軟骨膜および上皮下結合組織の線維芽細胞、エナメロイド形成期の歯胚象牙芽細胞にtype I collagen pro α1鎖mRNAの存在が確認された。これら実験結果は、エナメロイド基質線維は、上皮細胞ではなく間葉細胞(象牙芽細胞)が合成していることを示し、発生学的には象牙質に近い組織であることを示唆している。歯胚上皮細胞のエナメロイド基質脱却機構の獲得により、エナメロイドは高石灰化組織に変化したものと考えられ、真のエナメル質とはまったく異なる組織と考えられた。
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