破骨細胞は生体内で骨吸収を司る主要な細胞である。これは、多核の巨大細胞で、単核の前駆細胞が分化融合して形成されると考えられている。破骨細胞による骨吸収は、破骨細胞の分泌するプロトン(水素イオン)ち各種の加水分解酵素が関与している。破骨細胞のプロトン分泌は、カーボニックアンヒドラーゼとプロトンATPaseによって担われている。最近、我々は、歯周病細菌による骨吸収の細胞生物学的研究を進めていく間に、プロトンATPaseを阻害すると破骨細胞が急速に死滅することを見い出した。本研究は、このプロトンATPase阻害剤による破骨細胞の死滅の機序を明らかにしようとするものである。 マウス骨髄細胞からin vitroで破骨細胞を形成させ、これをプロナーゼ処理で精製して以下の実験に用いた。精製破骨細胞にMitAlertを取り込ませ、ミトコンドリア膜を蛍光ラベルした。これにプロトンATPase阻害剤であるconcanamycin Aを作用させるとアポトーシスの進行とともにミトコンドリア膜の破壊が進むことがわかった。また、生存因子除去によるアポトーシスにおいても同様の変化がみられた。また、破骨細胞にconcanamycin Aを作用させるとcaspase-1とcaspase-3の活性化が起こるが、さらに他のcaspase活性を測定するとcaspase-8およびcaspase-9の活性化も起こっていることが分かった。 最近、破骨細胞に特有のプロトンATPaseサブユニットが存在し、それをノックアウトしたマウスでは破骨細胞による骨吸収が起こらず、マウスは重度の大理石病になることが示された。本研究においても、プロトンATPaseの阻害によって破骨細胞のミトコンドリアが破壊され、各種caspaseの活性化とともに破骨細胞が急激にアポトーシスを引き起こすことが明らかになった。従って、プロトンATPaseは、単に破骨細胞による骨吸収に重要であるだけでなく、破骨細胞の存在を維持するために必要な酵素であることが結論される。
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