歯垢微生物の中でもStreptococcus sanguisなどに比べStreptococcus mutansや乳酸桿菌は酸性域でも活発に酸を作り続ける。そこでS.mutansや乳酸桿菌は酸性域でも菌細胞内のpHを高く保っているかどうかを検討した。近年、細胞内pHを正確に測定できる蛍光色素が開発された。今年度はこの色素を用いて、培養後洗浄したS.sanguis、S.mutans、乳酸桿菌を緩衝液に懸濁した状態の休止菌について細胞内pHの測定を試みた。今までの連鎖球菌の報告では、細胞外が酸性(pH5.0)のとき、細胞内pHはこれよりアルカリ性(pH5.5)であるとされてきたが、本研究の結果から、種々の細胞外pHの緩衝液に菌細胞を懸濁すると、数分後には細胞内・外のpHは等しくなること、そして耐酸性の強いS.mutansや乳酸桿菌と、耐酸性の弱いS.sanguisでもその細胞内pHは同じであることが示唆された。このことは酸性域でもS.mutansや乳酸桿菌が酸を産生することが出来るのは細胞内pHの違いによるものではなく、細胞内の酵素蛋白自体が酸性でも活性を保つためであることを示唆している。このように酸性環境での歯垢微生物の細胞内pH変化を経時的に追跡できるようになったので、反応中間体レベルの測定と組み合わせれば細胞内での各代謝反応とpHとの直接的関係についての知見が得られることとなった。
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