本年度は、嚥下に関連する感覚機構を中心に調べた。手法としては、「マグニチュード推定法」を使用して感覚の定量化をおこなった。得られた主な知見は、以下のようである。 (1)口腔の食塊量-健常な被験者を対象として、食塊の容量ならびに重量に関する感覚評価を実施したところ、食塊量(物理量)とそれに伴う感覚強度との間には、いわゆる「ベキ法則」が成り立った。食塊の容量をS、感覚強度をΨとすれば、両者間にはlogΨ=1.152logS+0.459という関数関係が得られた。これは、Ψ=2.877S^<1.152>と書き換えることができ、「ベキ法則」に従う。このような関数関係は、口腔内の食塊容量ばかりでなく食塊重量についても認められた(日本官能評価学会誌、印刷中)。 (2)嚥下の容易度-食塊の飲み易さについて、液体を用いて調べたところ、一同嚥下量の極端な増加と減少によって減じた。すなわち、一回嚥下量を9〜22mLの範囲で変化させても、嚥下の容易度には大きな変化がなかった。しかし、6mL以下ならびに24mL以上では、嚥下の容易度が統計的な有意差をもって減少した。これをグラフ化すると、嚥下の容易度は、15mLを中心とした「逆U字曲線」を描いた。これは、刺激強度と「快-不快尺度(hedonic scale)」との間に認められる一般的関係に該当する。嚥下の容易度については、(1)にあるような直線関係ではなく、逆U字型の曲線関係に則ると言える(日本摂食・嚥下リハビリ学会誌、審査中)。 (3)食品物性と嚥下-高齢者の嚥下補助食品として、食物繊維の豊富な「寒天」がもつ嚥下特性をその物性との関係から調べている。また、高齢者における咀嚼能力の向上を目指して、米菓のもつ可能性についても検討中である。
|