嚥下時には、頭部や体幹にそれと随伴する運動が認められるという。本年度は嚥下の運動的側面に戻って、嚥下に随伴する運動の解析を計画した。結果的には、頭部と体幹の単純な運動を記録、解析する方法を確立するところまでで研究期間の終了を迎えた。しかし、この確立された方法を応用すれば、実際の嚥下時における頭部と体幹の運動解析は極めて容易である。 今回確立した方法では、最近開発された加速度センサーを用いて頭部ならびに体幹運動を記録する。従来、咀嚼や嚥下の運動を記録する際には体幹の固定や大きな装置の装着などがあり、日常生活で実際に起こる咀嚼や嚥下と隔たった運動になりかねなかった。そこで、小型で軽量の加速度センサーを利用した記録方法を採った。 被験者(n=14)には、先ず単純な頭部運動である「前・後屈」課題ならびに「左右側屈」課題をおこなわせた。その結果、これまで角度計を用いて計測されたものとほとんど同じ値が得られた(「前・後屈」で約110°、「左右側屈」で約100°)。記録された運動は、前後方向と左右方向の成分に分けて出力されるので、それぞれの成分について「傾斜角度」と「所要時間」とが算出された。角度計による計測では把握できなかった運動の時間的変化も解析できるようになった。その特長を端的に示すのが頭部の「回転」課題であった。各被験者には左右の回転運動を15秒間おこなわせ、前後方向と左右方向への「最大傾斜角度」を測るばかりでなく、「所要時間」も加味して運動の再現性や円滑性を評価した。運動の再現性については「最大傾斜角度」のばらつきを基に、また円滑性については前後方向と左右方向への「所要時間」に関する「比」を基に、それぞれ評価基準を作成した。加えて、前後方向と左右方向の成分を時間で一次微分した結果も円滑性評価に有効であることを示した。
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