研究概要 |
細胞分化は多様な分化誘導因子によるシグナルがそれら固有の伝達系を介して転写因子を制御することによりなされている.しかし,転写調節には単に転写因子の量的,あるいは質的な制御だけでなく,DNAのトポロジー制御が重要である.ヒト唾液腺腫瘍細胞(HSG)は様々な分化誘導剤での処理により,様々な細胞に分化し,増殖および造腫瘍性が低下することが知られている.トポイソメラーゼ(Topo I,Topo IIα,β)およびトポイソメラーゼにより発現が制御されているTIS/Pdcd4/H731の分化におけるはたらきについてウェスタンブロッティングおよびリアルタイムRT-PCRによりその発現を解析した. HSGはRT-PCRの結果よりTopo I,Topo IIα,βを発現していた。タンパク質レベルではTopo IIβは検出できなかったが,Topo IIα(22倍)>Topo I(4倍)>Topo IIβ(1倍)の順にmRNAの発現量が多いことがリアルタイムRT-PCR解析により明らかになった。通常,Topo IIaは増殖の盛んな細胞で発現し,Topo IIβはconstitutiveに発現しているので,腫瘍細胞であるHSGにおいても同様である考えられる.Topo Iはレチノイン酸処理によりmRNA,タンパク質とも処理後1日目より減少したがタンパク質レベルでの変化は小さく,mRNAの減少も回復傾向が見られた.dibutyryl cAMP処理ではmRNA,タンパク質とも大きな変化は見られなかった.Topo IIaはレチノイン酸処理によりmRNA,タンパク質とも処理後1日目より減少した.dibutyryl cAMP処理ではmRNAの大きな変化は見られなかったが,タンパク質は減少傾向を示した.Topo IIβ mRNAの発現はレチノイン酸処理,dibutyryl cAMP処理では変化せず,一定であった.TISに関しては昨年他のグループより細胞のトランスフォーメーションに関与することが報告された.TISはトポイソメラーゼの阻害により発現が抑制されるので,分化誘導にともなうトポイソメラーゼの発現量の低下はTISの発現を減少させると考えられたが,TIS mRNAは処理後微増し,4日目にはほぼ元のレベルに戻った.
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