生後1〜10週のウイスター系ラットから採取した咀嚼筋のbuccal stretch receptor(BSR)を用い、受容器の静的感度に関与するイオン機序を検討した。BSRをヒアルロン酸に対するモノクロナール抗体で反応させ、免疫組織化学的に検索した結果、ヒアルロン酸の陽性反応は生後1週では認められなかった。生後2週以後、嚢腔の発達とともに嚢腔内に陽性反応が認められ、反応は次第に強くなった。このことから、生長過程における嚢腔内ヒアルロン酸の増加が嚢内外に電位差を生じさせるとともに、嚢腔のカリウムイオン濃度を高め、結果としてBSRの興奮性を高めていることが示唆された。Anti-Kv1.4抗体を用いたA型カリウムチャネルの免疫組織化学的検索では、生後10日のBSRには陽性像はみられなかった。生後2週では、軸構造周囲にKv1.4陽性像が明瞭に認められた。生後3週以後、陽性像は髄鞘内に限定されるようになり、無髄の神経終末には認められなかった。このことから、感覚神経終末の符号化部におけるA型カリウムチャネルの生長にともなう密度の増大が、BSRの静的感度を成熟させる要因の一つであることが示唆された。成体から得たBSRにtetraethylammoniumを作用させ、ランプ波状伸張刺激に対する応答の変化を記録した結果、BSRの静的応答頻度は全般的に低下した。同様な検索で、4-aminopyridineはBSRに自発性放電を発現させるとともに、静的感度を著しく低下させた。また、apaminはBSRの静的応答頻度を全般的に低下させたが、静的感度には著しい影響を及ぼさなかった。これらのことから、符号化部の遅延整流型カリウムチャネルがBSRの静的応答の発現に関与し、A型カリウムチャネルが静的感度の修飾に関与していることが示唆された。
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