研究概要 |
ベンゾジアゼピン(BDZ)系薬物による唾液分泌抑制は、唾液分泌に関与する唾液腺細胞膜のムスカリン、アドレナリン受容体、GTP結合蛋白質、ホスホリパーゼC(PLC)に対する直接的な阻害作用によるのではなく、唾液腺に存在するBDZ受容体を介した作用によって引き起こされることが明らかになってきた。すなわち、BDZはクロライドイオン(Cl^-)の耳下腺細胞内への流入を促進し、細胞外への流出を抑制すること、唾液腺細胞からのアミラーゼ分泌を抑制すること、細胞内情報伝達物質であるイノシトール1,4,5-三リン酸(IP_3)産生を抑制することなどが明らかにされ、これらのBDZの作用が中枢型および末梢型のBDZ受容体遮断薬により抑制されることが示されたからである。また、BDZを耳下腺細胞に作用させると非常に早い時期にカルシウム(Ca^<2+>)流入が促進され、その後はCa^<2+>流入が抑制されることが明らかとなり、BDZによる唾液腺細胞内イオン(Cl^-,Ca^<2+>,K^+など)濃度の変化が大きいことが示された。IP_3の産生酵素であるPLCは、Ca^<2+>依存性酵素であることから、Ca^<2+>のPLC活性に対する影響を調べた。その結果、ラット耳下腺細胞膜を用いてカルバコールとGTPγSによりムスカリン受容体、GTP結合蛋白質を刺激した時のPLC活性および細胞膜をコール酸処理により得た膜可溶性画分のPLC活性は、free Ca^<2+>濃度がそれぞれ5×10^<-7>Mおよび10^<-7>Mで最大活性が得られた。この結果は、細胞内の生理的Ca^<2+>濃度(10^<-8>M)がムスカリン受容体刺激により10〜100倍に増加することから、正常レベルのCa^<2+>濃度によりPLCが活性化されることを示しており、BDZによる一時的な細胞内Ca^<2+>濃度の上昇はPLC活性には影響を及ぼさないと考えられた。他の要因(主にCl^-の細胞内濃度の増加)がPLC活性の低下を引き起こし、その結果IP_3産生が低下し、Cl^-の細胞外(腺腔側)への流出が抑制され、それに伴うNa^+と水の移動が抑制されるために唾液分泌が抑制されると考えられる。
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