シェーグレン症候群、頚部の放射線治療による口渇の治療薬として米国で臨床応用されているピロカルピンの顎下腺細胞における薬理作用と神経性ペプチドとの相互作用について検討した。実験は、いずれも24時間絶食した10週齢のSD系雄性ラットを用いた。1.ピロカルピン(0.1-10mg/kg)の1回静脈内投与による唾液と蛋白の分泌は、用量依存性の増大を示した。唾液に分泌された糖蛋白の電気泳動像では、大部分が腺房の粘液細胞由来のムチンと漿液性細胞由来のアミラーゼで、その他にわずかであるが顆粒管の漿液性細胞からのカリクレインがみられた。2.ピロカルピンによる唾液分泌の抑制は、ムスカリン性遮断薬のアトロピン、4-DAMPの前投与の他に、アドレナリン性α遮断薬のフェントラミン、プラゾシンの前投与でもみられた。3.ピロカルピンによる唾液への蛋白と腺房の粘液細胞からのムチンの分泌の抑制は、いずれもアドレナリン性β遮断薬のプロプラノロール、メトプロロールの前投与でみられた。4.セクレチンは、ピロカルピンによる蛋白と腺房細胞からのムチンとアミラーゼの分泌を著しく増大させた。しかし、このような増強作用は、唾液分泌においてみられなかった。 この研究の展開として、ピロカルピンによる唾液と蛋白の分泌に対するニューロペプチドYの作用についての実験を予定している。このペプチドは、唾液腺に存在することが免疫組織化学的研究により証明されているが、その生理学的、薬理学的意義については明らかでない。この実験では、ピロカルピンの他にノルアドレナリン、アセチルコリン、イソプロテレノール、サブスタンスPの唾液分泌に対するニューロペプチドY_1とY_2受容体の役割についての検討を行なう。
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