本研究は、ラット顎下腺からの唾液と蛋白の分泌における神経伝達調節物質の役割を明らかにするために行なった。1.VIP(Vasoactive Intestinal Peptide)によるサブスタンスPのラット顎下腺からの唾液分泌増強作用におけるニューロペプチドYの役割について検討した。その結果、(1)唾液分泌作用は、サブスタンスPで強く、VIPおよびニューロペプチドYでほとんどみられなかった。(2)VIPは、サブスタンスPによる唾液と蛋白の分泌を増大した。(3)ニューロペプチドYは、サブスタンスPによる唾液分泌に影響しなかった。(4)ニューロペプチドYは、VIPによるサブスタンスPの唾液分泌増強作用、唾液分泌の持続作用および蛋白分泌作用に対していずれも用量依存性の抑制を示した。2.口腔乾燥治療薬であるSNI-2011とピロカルピンによるラット顎下腺からの唾液と蛋白の分泌促進作用に関与するムスカリン受容体とアドレナリン性受容体のサブタイプについて比較検討した。その結果、(1)SNI-2011とピロカルピンの投与による初期の唾液分泌促進作用は、上頸神経節のムスカリン性M_1受容体と顎下腺のM_3受容体の刺激による。(2)ムスカリン性M_1受容体の刺激に依存する唾液分泌作用は、SNI-2011よりもピロカルピンで強い。(3)SNI-2011の投与による後期の唾液分泌促進作用は、M_3受容体の刺激により、その作用はピロカルピンよりも強い。(4)SNI-2011とピロカルピンによる唾液分泌作用は、VIPの前投与により増強される。 以上の結果より、ニューロペプチドYおよびVIPは、カルシウム動員系の神経伝達物質、タキキニンおよびムスカリン性薬物による唾液および蛋白の分泌における調節物質として作用することが示唆される。
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