研究概要 |
口腔内には種々の細菌が棲息し、近年これらの細菌が全身疾患とも関連していることをうかがわせる報告が数多くある。とくにStreptococcus sanguinisは心内膜炎の炎症部位やの種々の膿瘍病巣部に存在することが報告されている。本研究では、膿瘍部位などに多量に存在するヌクレオチドに着目し、各種ヌクレオチドが口腔内細菌に代謝されるのかについて検討した。口腔レンサ球菌について検討したところ、S. sanguinis、S. gordonii, S. salivarius生菌ではCMPを分解して、無機リン酸、アンモニアを生成した。一方、S. mutansやS. sobrinus等ではアンモニアを生成しなかった。そこでこれらの二つの菌群にどのような代謝上の差異があるのか検討した。無細胞抽出液で比較したところ、両菌群のシチジンデアミナーゼ自体は同程度の活性が確認された。しかし、S. sanguinis等の細胞膜画分ではヌクレオチダーゼ活性が圧倒的に高いのに対して、S. mutans等ではほとんど認められないことがわかった。ただし、どちらの菌群の細胞膜画分にもシチジンデアミナーゼ活性は全く認められなかった。細胞膜画分を含む無細胞抽出液で検討したところ、酸素フラッシュによりヌクレオチダーゼ活性は有意に低下した。無細胞抽出液中ではある種の活性酸素が生成し、失活させたと考えられた。CMP以外にAMP、GMP、UMP、デオキシAMP、デオキシCMP、デオキシGMPもS. sanguinis生菌で分解された。またこれらの基質は細胞膜画分のヌクレオチダーゼで分解されることが確かめられた。そして、S. sanguinis生菌では(デオキシ)AMP、(デオキシ)CMPを分解してアンモニアを産生した。ただし、いずれの場合も5'-ヌクレオチドが基質になり、3'-ヌクレオチドは基質にはならなかった。本研究によりS. sanguinis等では菌体外の5'-(デオキシ)リボシヌクレオチドを分解して利用できることが判明したが、これらの事実は歯垢生態系のみならず、身体各部位における細菌の生態系を理解するためにも重要であると考えられた。
|