研究概要 |
本年度はラット舌癌の誘発実験を広島大学原爆放射能医学研究所において行った。この実験においては,F344(Fischer)ラット30頭を実験動物として用い,それらラットに,ラットが7週齢となった時点から8週間にわたり発癌剤4ニトロキノリン1オキサイド(4NQO)の20ppm溶液を飲料水として投与した。その後は飲料水を水道水に変えてラットが40週齢となるまで飼育を継続した。その結果,ラットが28週齢を過ぎる頃より,3頭のラットに著明な体重減少が生じ,31週齢の時点でそれら3頭を屠殺して全身諸臓器を肉眼観察したところ,3頭すべての舌後方部に小指頭大の扁平上皮癌が生じていることが確認された。4NQO投与開始後20数週で,そのように大きな舌癌が4NQO投与ラットの10%に生じたという報告はほとんどないようであることから,今回行った発癌実験は,これまでの発癌実験と比較して,ラットの舌癌をかなり早期に,また,より高率に発生される可能性が示唆された。ラットが31週齢を過ぎたのちは,著しい体重減少を示したラットを屠殺し,それら以外のラットは40週齢となった時点で屠殺した。その結果,合計9頭のラットの舌に癌が生じていることが肉眼的に認められた。屠殺されたラットすべてより,舌を含めた諸臓器が摘出され,組織切片作製のための処理を舌・諸臓器に施行した。さらに舌の一部は分子生物学的解析のために,凍結保存した。また,肉眼的に確認された癌組織の一部を材料としてラット舌癌細胞の培養を試みたところ,培養細胞として発育し,これまでに5代継代された。現在,舌および諸臓器の切片作製を継続しており,今後は,病理組織学的検索のほか,生じた舌癌を,免疫組織化学・in situ hybridization等の手法により検討して,ラット舌癌組織の遺伝子異常の解明を行う予定である。なお,ラットの屠殺ならびに屠殺以後の処理・標本作製などは広島大学歯学部で行ったことを付記する。
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