研究概要 |
口腔内に装着した金属の一部が溶出し,扁桃で取り込まれ,アレルギーを誘導するかを検討するために,ニッケル塩溶液を扁桃に投与した. 実験では,抗原として塩化ニッケル溶液のみの場合,免疫を亢進するために牛アルブミンを加えた場合,さらにコレラ毒素B鎖も加えた場合,合計3種類をそれぞれのウサギの扁桃滴下した.投与6週間後,パッチ法および皮内注射によりニッケルとの皮膚反応を調べた.また,塩化ニッケルに対する抗体の検出は技術的にできないため,同時に添加した牛アルブミンに対する抗体を調べた. 扁桃免疫後,いずれの投与の場合においても,パッチ法および皮内注射により,ウサギに塩化ニッケルとの皮膚反応における炎症は生じなかった.また,興味あることに牛アルブミンを単独で6週間投与しても血清抗体を誘導できないにもかかわらず,塩化ニッケルを混ぜて投与すると牛アルブミン抗体が誘導されることがわかった。さらにコレラ毒素B鎖を加えても単に抗体の産生が増大するだけであった. この結果は以下の事項を示唆している.第一に,ニッケルイオンは口蓋扁桃内に取り込まれること.第二に,ニッケルイオンは口蓋扁桃内で,免疫系に何らかの影響を与えること.第三に,扁桃に取り込まれたニッケルイオンは,共存するタンパク質に対する抗体を誘導する作用を持つことである.ニッケルイオンの抗体誘導作用は不完全抗原とキャリヤーの関係と似ている.通常の筋注免疫におけるキャリアーは,単独でも抗原性を持ち,不完全抗原の免疫獲得を助ける.しかし,ニッケルイオンの扁桃投与の場合,ニッケル単独では抗原性がみられない.したがって,ニッケルイオンは通常のキャリアーと全く異なる機序で免疫系に作用することが示唆された.
|