平成10、11年度の研究で、P.gingivalisのもつ赤血球凝集活性に関わる分子が明かになった。P.gingivalisの赤血球凝集活性は、赤血球凝集活性の関わる分子群の機能ドメインとして、赤血球凝集活性に関わると示唆されていた多くのプロテアーゼ類やHagA分子に共通して存在すること、さらに、それらの分子中に存在するショート配列「PVQNLT」が重要であろうことが示された。この配列は、赤血球凝集活性という機能は同一でありながら全く分子構造の異なる、インフルエンザウィルスの赤血球凝集素の分子の突端に存在する配列と相同性が認められた。本年度は、ヒト血清中に存在するインフルエンザに対する抗体とP.gingivalis赤血球凝集素に対する抗体との交差性について検討を試みた。 P.gingivalis 130kDaタンパク質(HAG)を強く認識する人の抗体産生細胞をスクリーニングし、ヒト型モノクローナル抗体を作成した。これらのP.gingivalis HAG抗体がインフルエンザウィルスのヒト細胞への感染を抑制可能かを検討した結果、A型インフルエンザウィルス(H3N2)の数種のタイプで赤血球凝集活性を抑制し、さらに、A/Udorn/307/72(H3N2)を用いて感染抑制実験を行った結果、感染抑制が認められた。A型のうち、(H1N1)および、(H2N2)では関与は認められなかった。また、(H3N2)の中で、1979年以前の流行タイプの赤血球凝集活性を抑制したが、1982以降の流行タイプのものを抑制しなかったことから、インフルエンザウィルスのPVQNLT類似配列の流行株における変化を比較したところ、この部位に変化が見られた。 以上、リプレイスメントテラピーの実現に向け、抗体の生体での影響を推測することによって、安全な材料の検討の一因子として生体側の抗体との関わりも重要な可能性が示された。
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