研究概要 |
歯周炎は,T細胞などの免疫担当細胞と線維芽細胞との複雑な相互作用により病態が形成されている。その発症に際し,種々のサイトカインを介した細胞接着が重要な役割を担っているがその詳細は未だ不明な点が多い。そこで,歯周炎発症の機序を解明するため,以下の研究を行った。(1),細胞外マトリックス蛋白およびICAM-1に対するT細胞の接着:PHA刺激T細胞(PHA-T)は細胞外マトリックス蛋白であるファイブロネクチン(FN),ラミニン(LN),コラーゲン(CL)typeIおよびLFA-1のリガンドであるICAM-1に対して,それらの濃度依存性に接着が増強した。(2),接着細胞に及ぼすケモカインの影響:(a)PHA-TのFN,LNおよびCLtypeIおよびtypeIVに対する接着は,PHA添加により著明に増強したが,MCP-1,RANTESおよびFractalkineの添加では増強しなかった。(b)PHA-TとICAM-1との接着はMCP-1とRANTESにより有意に増強したが,Fractalkineによる増強は認めなかった。(3),PHA-Tの線維芽細胞E11細胞に対する接着:(a)Ell細胞とPHA-Tとの接着は細胞数依存性に増強した。(b)抗LFA-1αおよび抗LFA-1βによりこれら細胞の接着は著明に抑制されたが,抗CD2,抗VLA-4α,抗VLA-5αおよび抗VLA-β1抗体では抑制されなかった。(4),E11細胞とPHA-Tに及ぼすケモカインの影響:E11細胞とPHA-Tとの接着は,MCP-1とLANTESにより有意に増強したが,Fractalkineによる増強は認めなかった。以上の結果より,MCP-lやRANTESなどのケモカインが,T細胞上のインテグリン分子を活性化し,ICAM-1などのリガンドを強く発現している線維芽細胞との接着を増強する可能性が示唆された。さらに,インテグリン分子を介した細胞接着が,線維芽細胞とT細胞の両者を活性化し,さまざまなサイトカイン,蛋白分解酵素,プロスタグランディンやプロテオグリカンなどの産生を促し,炎症性肉芽の増成と歯周組織の破壊をきたし,慢性炎症性疾患である歯周炎を引き起こす可能性が示唆された。
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