平坦にした牛歯唇面にダイアモンドポイント(テーパー2/10)を用いてI級規格窩洞(径3.8mm、深さ2mm)を形成し、窩洞径を測定顕微鏡により測定した。窩洞と同一のテーパーを有し、径の異なる数個の金型を用いて蝋型を作製し、金パラジウム合金によりI級インレーを作製した。サンドブラスト後、インレー体の頭径を窩洞の場合と同様に測定し、窩洞との寸法差をセメント被膜厚さとした。コンポジットタイプとMMAタイプの2種の接着性レジンセメントを用い、各々の金属用プライマーで処理した後、指示書にしたがって接着操作を行った。水中一日保管後、インレー体スプルー部に付与したフックを利用して、万能試験機により引っ張り試験を行った。ついで、新たに作製した試片を切断し、実際のセメント被膜厚さを計測して、計算によるそれを対比させた。 その結果、次の知見が得られた。 1.従来型の無機セメントで言われている傾向とは異なり、今回用いた2種の接着性レジンセメントでは、セメント被膜厚さと鋳造体の保持力の間には明瞭な関連性は観察されなかった。すなわち、接着性レジンセメントにおいては、被膜厚さの差異は鋳造体の保持力に影響を及ぼさないことが示された。2.計算によるセメント被膜厚さは実測値よりも小さく、両者の比率は85%であった。3.MMAタイプのセメント(全試料平均32kg)の方がコンポジットタイプ(同20kg)のものより、高い保持力を示した。これは、象牙質に対する接着強さの差異によるものと考えられた。4.窩洞内での引っ張り試験の測定値を窩洞の表面積で除した値は各々10及び6Mpであり、歯牙平坦面での接着試験のそれと比べると低かった。5.接着性レジンセメントも、被膜厚さが薄い(100μm以下)場合には、鋳造体の浮き上がりが観察された。
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