咬合痛を右する患者34名を対象に、まず咬合痛の発現歯種について検討したところ、上下顎の第一大臼歯に一番多く認められた。さらに、患歯術前の臨床詣症状ならびにエックス線写真を参考に種々検討したところ、23症例において根管に穿孔が認められた。この穿孔部を詳細に診査したところ、穿孔は板状根を右する根管に多く認められ、次の3Type、すなわち、穿孔が根尖孔付近に認められる症例や根尖側壁部に認められる症例、および根中央側壁部に認められる症例に分類できた。また、咬合力計を用い、患歯および反対側回名歯の咬合力を測定したところ、患歯は反対同名歯に比べ、30%以下に減少していることが明らかになった。 次に、上記3Typeの予後について検討したところ、根尖孔付近に穿孔が認められる症例の予後は良く、咬合力の回復も認められた。しかし、穿孔部が根尖側壁部や根中央側壁部にある症例の予後は根尖孔付近に穿孔がある症例に比べ悪かった。これらのことから、穿孔部の大きさや部位による違いが咬合痛を有する歯の予後に大きく影響することが明らかとなった。なお、今回、穿孔部の処置には水酸化カルシウム単独を用いて行った。 さらに、穿孔部とそれに関する歯根膜感覚との関連性を調べるため、同一歯で穿孔部根管に相当する歯冠部歯質を乗直に軽く打診したところ、他の部位に比べて、明らかに異なった反応を示した。これは穿孔に伴う機械的刺激や炎症が穿孔部付近の歯根膜受容器に作用し、閾値を低下させたために、この様な違いが生じたものと考えられる。しかし、穿孔部と歯根膜感覚の方向特異性については認められるものの、それらから穿孔部位を推定するには至らなかった。 以上のことから、咬合痛を起こす要因の一つとしては根管内に生じた穿孔が関与していることが明らかとなった。さらに、根管内での穿孔位置が咬合痛を伴う歯の予後に大きく影響することが示唆された。
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