本研究の目的は歯内療法処置後に生じる咬合痛の発症メカニズムについて検討することにある。 臨床で咬合痛を有する患者36名について、その発現歯種について検討したところ、上下顎の第一大臼歯に一番多く認められた。さらに、患歯術前の臨床諸症状ならびにエックス線写真を参考に種々検討したところ、24症例において根管に穿孔が認められた。そこで、穿孔と咬合痛との関係を明らかにするため、ラット開口反射を指標として、実験を行った。その結果、上顎右側中切歯(コントロール群)と左側中切歯(穿孔群)に舌唇あるいは唇舌方向から機械的刺激を加えると、反射を誘発するのに要する閾値は、いずれも左側中切歯(穿孔群)の方が低かった。また、左側中切歯(穿孔群)に関して、舌唇あるいは唇舌方向から機械的刺激を加えた場合、唇舌方向に加えたグループの方が舌唇方向グループよりも閾値が低かった。このことは根管に穿孔が認められると通常の咬合圧でも痛みを生じる可能性を意味する。さらに、臨床で咬合痛を訴える患者で穿孔が疑われる単根歯を対象に歯根膜感覚の方向性を検討したところ、穿孔部あるいは破折部の歯根膜が伸展される方向に機械的刺激を加えると患者は違和感を訴えた(11人中7人、64%)。 以上のことから、臨床で咬合痛を起こす要因の一つとして、根管内の部分的な穿孔が関与していること、さらには穿孔部附近の歯根膜に方向特異性のあることが明かとなった。
|